ムシトリスミレの花を撮りに行きたいと思い、12年ぶりに尾瀬に行ってきました。尾瀬はムシトリスミレが自生する場所のひとつです。
ムシトリスミレの撮影は自分の課題でした。
というのも、以前、赤城山でムシトリスミレを撮影した時にほぼピンぼけ。その後、赤城山を再訪した時は突然の悪天候に見舞われ探索を断念。その上、12年前に尾瀬に行った時にあまり上手く写真を撮れなかったことなど、数々の心残りがあったからです。一昨年、昨年もぼんやり計画していましたが、コロナ感染拡大で延期。
今回は満を持しての決行です。それでは、尾瀬ムシトリスミレ旅をレポートします。
ムシトリスミレとは

ムシトリスミレはタヌキモ科の多年生植物。漢字で「虫取菫」と書き、スミレの花に見立てて名付けられました。学名はPinguicula macroceras。日本、カナダ、アメリカ北部太平洋沿岸に広く分布。葉に極細かな腺毛が多数密生し、粘液を出して虫を捕まえる食虫植物です。
ムシトリスミレの仲間(ムシトリスミレ属)は、およそ80種が確認され、ムシトリスミレ=マクロセラス種はその内のひとつです。日本に自生するムシトリスミレは、このマクロセラスとコウシンソウ(Pinguicula ramosa)の2種のみ。この貴重な植物マクロセラスを尾瀬で観察することができます。
※コウシンソウは庚申山、男体山、雲竜渓谷などで見られます。
旅の行程
前回行った時は深夜発の車中泊でした。今回は確実に撮影したかったので、天候が悪化した場合に備え1泊2日で計画しました。後は開花タイミングが合うことを祈るだけ。
1日目 早朝バスタ新宿発ー尾瀬戸倉着 →乗り換えて鳩待峠 →横田代撮影 →鳩待峠 → 尾瀬戸倉 → 尾瀬高原ホテル泊
2日目 尾瀬高原ホテル→鳩待峠→横田代→アヤメ平撮影→鳩待峠 → 尾瀬戸倉→バスタ新宿
バスタ新宿関越交通尾瀬号で尾瀬戸倉〜お昼前に鳩待峠到着

自宅から始発でバスタ新宿4Fに行き、待合所で飲み物を買い、7:15発の関越交通「尾瀬号」に乗車。閑散期の平日ということもあり、乗客は私を含めて3人でした。コロナ禍でも非常に快適です。

同乗したのは年配のご夫婦で登山慣れされている雰囲気。ほぼ貸切状態で、ザックを隣の席に置き、ゆったりと乗車しました。
渋滞にハマることもなくスムーズに練馬、川越を通過。三芳と赤城高原のパーキングエリアでトイレ休憩。乗車時間4時間ほどで、11時過ぎに尾瀬戸倉に到着しました。尾瀬戸倉停留場の近くに大型駐車場があり、マイカーで来た方、沼田駅から路線バスで来た方とも合流する場所です。ここから乗り合いバスに乗り換えて、鳩待峠に向かいます。

乗り合いバスは片道1000円でした。時刻表に則って運行していますが、人数が揃えば出発するようです。待合所で尾瀬号をご一緒したご夫婦としばし歓談。山小屋泊で至仏山に行かれるそう。一緒に乗り合いバスに乗り、細くくねった山道を蛇行しながら進みました。
鳩待休憩所でお昼ご飯と身支度

20分ほどで鳩待峠に到着しました。好天に恵まれた尾瀬!間近の天気予報は良くなかったのに快晴になりました。雨が多い尾瀬でこの天気は恵まれています。標高1591mある鳩待峠ですが、お天気のせいか思ったより気温が高く汗ばむ陽気です。一応用意した防寒着は必要ありませんでした。
駐車場から歩いて舗装された車道を通り、登山道入り口へと移動します。
人影もまばらな鳩待休憩所でお昼ご飯にしました。食べてみたかったおにぎり弁当(600円)を注文。これでもかというくらい塩気が効いていて、粗塩がザリザリと舌に当たるほど。大量に汗をかく暑い日にぴったりの味。おにぎりの中身は海苔の佃煮と梅干し。ナスのお味噌汁に、柴漬けとちょっとした唐揚げと卵焼きも、おかずに最高でした。

今回は空腹だったので休憩所で食べましたが、おにぎり弁当はテイクアウトできるようですので、山の中で食べても良さそうです。
夏の尾瀬の装備
昼食を食べ終えて登山靴に履き替えました。日中の気温は30℃近くになり、尾瀬といえども暑く、歩くと汗が流れます。
水分を3ℓ持ち、多すぎかとも思いましたが、結果的には正解でした。ボルネオの登山で水不足から熱中症になりかけた経験から、水分は必ず多めに持ちたい。重たければ飲めばいいのです。ちなみに、登山道入り口に自動販売機がありました。山値段で割高になっていますが、いざという時の飲み物を確保できます。
首に冷感タオルを巻きました。汗を吸うと冷たくなり気持ちが良く、首を冷やすと効率よく全身冷えるので熱中症予防にもなります。冷感タオルを色々な場面で重宝しています。
今回はこんな装備で歩きました。
・登山靴
・Tシャツ
・長袖シャツ
・冷感タオル
・登山用ズボン
・ザック
・帽子
・水3ℓ
・撮影機材
・雨具、レインウェア
・着替え、マスク替え
・熊鈴
・虫除けスプレー
・虫除けファン
・地図
・行動食
鳩待峠から横田代までの林床

鳩待峠からは尾瀬ヶ原方面、至仏山、アヤメ平経由富士見峠と3方向に行く道があります。
アヤメ平に向かい、鳩待山荘の裏手にある登山道入り口から入りました。鳩待峠にいた数少ない人も皆さん尾瀬ヶ原に向かうようで、アヤメ平方面に行く人はいません。登山道に入っても人の気配が全くありません。
あまりのひとけのなさに警戒して、今回mont-bellで購入した熊鈴を装着。鈴を鳴らしながら木の階段を登ると、しばらく緩やかな登り道が続きました。



鬱蒼とした樹林の道をしばらく登ると木道が敷かれた道に出ます。木道が途切れ、土の道を交互に歩くことになりました。

ギンリョウソウの群生



歩き出してすぐに鬱蒼とした樹林の道で、ギンリョウソウが所々に生えていました。白く透き通る体が森の中で目立ちます。菌従属栄養植物好きとしては、多くのギンリョウソウに出会えて嬉しく、幸先の良さを感じました。しかも一箇所から群生していて見応えがあります。来て良かった。

横田代に着くまでに二箇所ベンチがあり、水分補給をかねて少し休憩をしました。
アブが多い
行く道すがら気になったのがアブ、蜂が多いこと。虫除けスプレーを持っていて良かったです。山の中で常に羽音が聞こえ、手や顔にまとわりつきます。虫除けファンも装着していたので、刺されることはありませんでしたが、数は多いです。体が揺れるたびに鳴る熊の鈴の音とアブの羽音でかなり賑やか。
登山道で出会った花
途中で可愛らしい花に出会いました。ゴゼンタチバナ、マイヅルソウ、ミツバオウレン、タニギキョウなど白い花。




横田代のモウセンゴケの群生

樹林の道を小一時間ほど歩いた先、突如景色が開け、横田代に出ました。横田代から植生が変わり、入ってすぐに水芭蕉の葉が見えます。
これまでの道に全くなかったモウセンゴケ(Drosera rotundifolia)がここから姿を現しました。

横田代全域にモウセンゴケの群生。歩けども歩けどもモウセンゴケです。かなり広範囲に群生していて、赤く色づいた部分がモウセンゴケ。まるでモウセンゴケの絨毯のよう。緋毛氈が和名の由来になったことがわかる景色です。まさに毛氈。




美しい横田代の池塘
天気が良く池塘の景色がとても美しいです。




横田代で出会った花
モウセンゴケとともに、ワタスゲ、タテヤマリンドウ、ヒメシャクナゲ、チングルマが生えていました。




静かな佇まいの尾瀬高原ホテルに泊まる
初日の目的であった横田代の撮影を終え、ホテルのチェックインまでちょうど良い時間になったので、引き返して鳩待峠に戻ります。行きと同じく乗り合いバスに乗り尾瀬高原ホテルへ。


尾瀬高原ホテルは56室もある大型リゾートホテル。そんな大きなホテルであるにもかかわらず、まったく人影がありません。無人のホテル内を歩き、チェックインをして部屋へ。部屋に荷物を置き、すぐに入浴。汗を流します。誰ともすれ違わず、大浴場も貸切状態でした。
しばらくして夕飯の時間になったので、食堂「レストラン ヨーデル」に移動しました。とても広い食堂に先客が2人の、ほぼ貸切状態。ホテルの人の話によると、宿泊しているのが私を含めて4人だそうです。今はグリーンシーズン。ホテルの目の前にスキーのリフトがありますし、きっとスキーシーズンになると人が多くなるのでしょう。


窓からの良い景色を見ながらの食事。舞茸うどん、大根餅と野菜の陶板焼き、里芋の煮物、伽羅蕗の煮物、鹿の刺身、カツオのたたき、お漬物でした。私にはちょっと物足りない。明日に備えて、栄養補給とばかりにご飯をおかわりしました。
夕食後、貸切風呂状態の大浴場に再び入り、入念にストレッチ。前屈みで登山していたためか、バスの移動時間が長かったためか、腰に痛みを感じたので、ヨガで調整。前屈みの姿勢で腰を痛くした時には、セツバンダサルヴァンガアーサナがいいとヨガの先生に教わってから、痛む時にはこのポーズを3回くらい行っています。反り腰が治って腰痛が楽になります。
2日目尾瀬高原ホテルから鳩待峠へ
翌日も好天に恵まれて晴れていました。ところが、しっかりストレッチしたにもかかわらず筋肉痛。特に腿裏と脛の筋肉痛が酷いです。加圧のレギンスを履いたところ、筋肉痛が緩和されました。レギンス優秀。
朝食の代わりにまいたけ弁当(お茶のペットボトル付き)を受け取り、更に飲み物を買い足し、6:30発でホテル前の停留所から鳩待峠へ。ここから乗車するのは私ひとりです。着いたらすぐに昨日と同じ道を登ります。

横田代での朝食
前日撮影したこともあり、アヤメ平での観察時間を確保するため、急ぎ気味に登山道を進みました。歩きやすい木道は小走りに。木道って素晴らしい。それでも立ち止まってしまうギンリョウソウの前。

横田代の池塘

昨日よりペースアップして息を切らしながら横田代に到着。ひとりなので気ままなペース配分です。
いい天気で、池塘に青空が映り込みます。
朝食のまいたけ弁当(尾瀬高原ホテル)
昨日の景色を見て、朝ごはんは横田代にしようと決めていました。ほどなく横田代に着いて、ベンチでまいたけ弁当を食べました。

味の濃いまいたけおこわがもちもちとして、とても美味しいです。おかずのシャケと伽羅蕗の佃煮、紅生姜も程よい付け合わせ。


横田代の景色を眺めながらの朝食は最高でした。モウセンゴケを眺めながら、後ろ髪を引かれる思いでアヤメ平へと進みます。相変わらず誰もいない。

横田代〜アヤメ平の木道の老朽化
横田代あたりから木道が朽ちている場所が増え、うっかり踏むとシーソーのように持ち上がる箇所や片側が朽ちて無くなっている場所がありました。木道の上を歩くのが難しい場所も。晴れていたからまだしも、雨だったら歩きにくかったと思います。

これを絶景と言わずしてのアヤメ平

老朽化した木道を進み、再び鬱蒼とした山道へ。緩やかな登り道を経て中原山の三角点(標高1968m)を通過し、再び景色が開きます。横田代よりさらに見晴らしの良いアヤメ平へ。



前方には燧ヶ岳。この場所にずっと居たいと思うほどの美しさ。
アヤメ平のムシトリスミレ・モウセンゴケ

横田代では全く見かけなかったムシトリスミレが咲いていました。この花を見るためにここまで来ました。道のりを大変だとは思いませんでしたが、あるかどうかわからない不安を胸に探索していたので、咲いている姿を見た時に妙な安堵感が胸に広がり、涙ぐみそうになりました。


アヤメ平にもモウセンゴケが広がっていました。

アヤメ平で出会った花
ムシトリスミレ、モウセンゴケの他に、イワカガミ、トキソウ、ナナカマド、ハナニガナが咲いていました。トキソウは思ったよりも小さく繊細で色が薄いです。




アヤメ平の端まで歩き、景色を見て、富士見峠までは行かずに折り返します。

来た道を戻りました。振り返れば至仏山が存在感たっぷりに見えます。


再びムシトリスミレ、モウセンゴケ、ギンリョウソウを観察し、鳩待峠の入り口に戻りました。アヤメ平往復の所要時間は4時間ちょっとでした。その内お昼ご飯と休憩が20分ほどです。
鳩待峠休憩所で名物の花豆ソフト(500円)を買いました。ところが暑さですぐに溶けて垂れてきたので、急いで食べました。暑さと歩き疲れた体に甘さが染み渡り、花豆の味がしっかりしていて体が喜ぶ味。美味しい!

この後、鳩待峠から乗合バスで尾瀬戸倉まで。なんと行きに一緒のバスに乗っていたご夫婦と再会。また同じ高速バスで、バスタ新宿まで帰りました。これで今回の旅は終わりです。
持って行って良かったもの
今回の旅で重宝したものは虫除けスプレー、水分でした。
・虫除けスプレー
アブが多かったので虫除けスプレーを持っていて良かった!と思いました。なければ刺されていたと思います。
・水分
日中は気温が高くなり、歩いているうちに汗だくになりました。多めに持っていても全く余らず、むしろギリギリでした。尾瀬のサイトによると、水分は体重×行動時間×5(ml)が目安量だそうです。
・冷感タオル
日中暑くなったため、首に巻いた冷感タオルが気持ちよく、熱中症予防になりました。これのおかげでスムーズに行動できました。
旅の感想と反省点。今後の希望
良かったこと
何より嬉しかったのが、ムシトリスミレの開花のタイミングにぴったりだったこと。写真に収め、ようやく念願が叶いました。本当に嬉しいです。
また、今回、初めての尾瀬ソロハイク。これも非常に良く、マイペースで行動できるのが快適で、自分に向いていると思いました。道に動物の糞があったり、大きな物音がしたりした時など一人ならではの怖い時もありましたが、自分で判断して行動していくのは自信になります。
景色も体験する出来事も、より深く味わえました。
今回の旅の反省と今後の展望
予約していた帰りのバスの時間まで余裕があったので、富士見峠まで行けたのではと思います。慎重になり過ぎました。また、尾瀬高原ホテルに泊まり快適でしたが、尾瀬戸倉と鳩待峠を2往復するのであれば、山小屋に泊まり、行動範囲を広げれば良かった。
山小屋に泊まれば、尾瀬ヶ原の方も見て回れたはずです。また違った景色や植物も見られたかもしれません。ショウキランも見られたかも。
この反省は今後に活かし、また尾瀬に再訪したいです。今度は山小屋泊で。
尾瀬だけではなく、他の場所に自生するムシトリスミレも撮りに行こうと思います。
コメント