一見して、葉の表面に露がついているように見えるモウセンゴケ。
水滴のように見えるものは粘液です。
葉の表面にびっしりとはえた毛から粘液を出し、その粘液のつぶひとつひとつが光に反射してかがやく、とても美しい植物です。その美しさを形作る粘液は、実は虫を捕まえるための罠なのです…。そんな謎めいた魅力がいっぱいのモウセンゴケの基礎知識と雑学について解説します。
- モウセンゴケの仲間(属)とはどんな植物?
- モウセンゴケのおどろきの生態〜捕虫方法
- モウセンゴケは苔の仲間?
- モウセンゴケの種類
- モウセンゴケはどこに生えている?原産地について
- モウセンゴケの観察・購入方法(販売先)
- 入手しやすく育てやすいおすすめのモウセンゴケ
- モウセンゴケの値段はどれくらい?
- モウセンゴケを買うときに気をつけること
- 番外編:食虫植物(モウセンゴケ)とダーウィンの関係
- 番外編:モウセンゴケの薬用利用
- 番外編:モウセンゴケの味は?
モウセンゴケの仲間(属)とはどんな植物?
モウセンゴケはモウセンゴケ科に属する3属(ハエトリグサ、ムジナモ、モウセンゴケ)の内の一つの属です。モウセンゴケというと、モウセンゴケの1種類である「Drosera rotundifoliaドロセラ・ロツンディフォリア」を指す場合もありますが、ここではモウセンゴケの仲間(属)の説明をします。
モウセンゴケは多年生(一部は一年草)の被子植物で、粘りつけ(とりもち)式の罠をもつ食虫植物です。
種類はおよそ200種。いずれも、葉に多数の腺毛を生やし、粘液を分泌し虫を捕まえます。一方で、他の食虫植物同様に、地中、水から養分を吸い、葉緑素を持って光合成を行い、花を咲かせ、種をつけて殖える植物です。
独立栄養者でありながら、湿地などの貧栄養の痩せた土地に生え、他の植物との競合を避け、虫を食べることによって栄養を補い過酷な地に適応してきました。
モウセンゴケのおどろきの生態〜捕虫方法
モウセンゴケの虫を捕まえるメカニズムは繊細かつ動的です。
花や粘液のかがやきにおびき寄せられた虫、もしくはたまたま通り過ぎようとした虫はモウセンゴケの毛の先端に球状にたまった粘液にふれて捕まります。小型のチョウ、ハチ、ハエ、ガガンボなどが捕まっているのをよく見ます。大きなモウセンゴケだとトンボなども捕まえます。

この腺毛は感覚も持ち、虫が逃げようともがくと、触れた刺激によって、腺毛が動き出し(傾性運動)、虫の体を押さえ込むように巻き付きます。さらに腺毛の先から消化液を出します。消化液は酸性で、タンパク質を分解する消化酵素などが含まれ、虫の体に浸透し溶かします。虫を溶かし、腺毛から分解物を吸収し、自身の栄養にしています。
モウセンゴケは苔の仲間?
モウセンゴケは漢字で毛氈苔と書き、名前にコケが付いているので、苔の仲間だと思われることがありますが、苔の仲間ではありません。
モウセンゴケの学名(属名)はDrosera(ドロセラ)。
命名はリンネで、露を意味するギリシア語のdrososが語源です。英名はSundewサンデュー。太陽の露という意味があります。和名のモウセンゴケは、その姿を緋毛氈(ひもうせん)に見立てて名付けられました。
モウセンゴケの種類
モウセンゴケの仲間はおよそ200種もあります。姿形も多様で、茎が立ち上がるもの、ロゼットになるもの、草丈、葉の大きさと形、花色も多種多様です。
モウセンゴケは大きく3つのグループに分けられます。
・地下に塊茎(球根)をつくり休眠するもの
・地下に塊根をつくるもの
・塊根・塊茎をつくらないもの
塊茎(球根)をつくるモウセンゴケ
塊茎をつくるモウセンゴケ(=球根ドロセラ)は、主にオーストラリア南西部に自生しています。生育期に葉を伸ばし、花を咲かせ、種をつけ、5月〜11月の乾季には地上部は枯れ、地下の塊茎(球根)のみになり休眠します。

観葉植物として即売会やイベントなどを中心に販売されることもあります。
塊茎をつくるモウセンゴケ(=球根ドロセラ)の種類の数は70種。
オーストラリアの食虫植物の専門家Allen Lowrieの『CARNIVOROUS PLANTS OF AUSTRALIA MAGUNUM OPUS Volume One』では、塊茎をつくるモウセンゴケ(=球根ドロセラ)を5つのグループに分類しています。
①主軸がまっすぐ立ち上がり自立し、茎の上部が分岐するもの。時として基部にロゼットあり(メンジエシー、ギガンテアなど)
②主軸が立ち上がり、扇状に広がるもの(ルピコラ、ストロニフェラ、ラメロサなど)
③ロゼットになるもの(スクワモサ、ブルボサ、ウィッタケリ、ブロウニアナ、ゾナリア、ローリーなど)
④主軸が立ち上がり自立。基部にロゼットあり、主軸に葉が互生するもの(ペルタタ、ジグザギアなど)
⑤基部にロゼットがなく、つる性で他の植物などに絡まり伸びていくもの(マクランサ、ムーレイなど)
塊茎をつくるモウセンゴケの種類と写真
塊茎をつくるモウセンゴケ(=球根ドロセラ)①のグループ
ドロセラ・ギガンテア

ドロセラ・メンジエシー

塊茎をつくるモウセンゴケ(=球根ドロセラ)②のグループ
ドロセラ・ルピコラ


塊茎をつくるモウセンゴケ(=球根ドロセラ)③のグループ
ドロセラ・ウィッタケリ

ドロセラ・スクワモサ

ドロセラ・ゾナリア

ドロセラ・ローリー

塊茎をつくるモウセンゴケ(=球根ドロセラ)④のグループ
イシモチソウ

塊茎をつくるモウセンゴケ(=球根ドロセラ)⑤のグループ
ドロセラ・ムーレイ

ドロセラ・マクランサ

塊根をつくるモウセンゴケの種類と写真
根が太くなり塊根状になるモウセンゴケ。「芋ドロセラ」と呼ばれていたこともあります。システィフロラ、パウシフロラ、ゼイヘリなどが代表的な種類で、主に南アフリカに自生しています。塊茎をつくるモウセンゴケ(=球根ドロセラ)同様に、自生地では乾季に地上部が枯れ、塊根だけになり休眠します。
頂部に株の割に大きな花を咲かせ、花の形はアネモネに似て、花色も白、ピンク、紫、クリーム色などがあります。
球根ドロセラ同様に販売会などで販売されていることもあります。



塊茎(球根)・塊根をつくらないモウセンゴケ
塊茎・塊根を作らないモウセンゴケの仲間にはこれらのモウセンゴケがあります。
・小型のモウセンゴケ(ピグミードロセラ)
・熱帯性のモウセンゴケ(熱帯ドロセラ)/ペティオラリス類
・森林性のモウセンゴケ
・温帯性のモウセンゴケ
小型のモウセンゴケ(ピグミードロセラ)の種類と写真
ピグミードロセラはオーストラリアに自生する株の直径が1センチ前後のごく小さなモウセンゴケです。オーストラリアのパースに行った時には車道の脇などでもよく見られました。
株の中央にむかごをつけ、むかごから繁殖します。


熱帯性のモウセンゴケ・ペティオラリス類の種類と写真
オーストラリア北部の熱帯地域に自生しているモウセンゴケの仲間です。ロゼットに葉をつけ、その形の美しさから趣味家の間で根強い人気がある植物です。





森林性のモウセンゴケ
オーストラリア北部の熱帯地域の森林部に自生するモウセンゴケの仲間があります。

温帯性のモウセンゴケ
温帯性のモウセンゴケには、冬芽をつくり休眠するグループと常緑のグループがあります。冬芽をつくり休眠するグループには、日本のモウセンゴケやナガバノモウセンゴケも入ります。日本のモウセンゴケについては後述します。
冬芽をつくり休眠する温帯性のモウセンゴケの種類と写真



常緑の温帯性のモウセンゴケの種類と写真



モウセンゴケはどこに生えている?原産地について
モウセンゴケのなかまは、極地と砂漠をのぞく世界中に分布しています。中でもオーストラリア、南アフリカに多くの種類が自生しています。多くが日当たりの良い、栄養の乏しい酸性土壌に生え、湿地や水が流れる岩肌に生えています。水苔と一緒に生えているのも見かけます。





日本に自生するモウセンゴケの種類
日本にも北海道を北限に、南は沖縄離島にまでモウセンゴケの仲間が自生しています。日本に自生するモウセンゴケは6種あります。
・モウセンゴケ
・コモウセンゴケ
・トウカイコモウセンゴケ
・イシモチソウ
・ナガバノイシモチソウ
・ナガバノモウセンゴケ







モウセンゴケの観察・購入方法(販売先)
モウセンゴケを実際に観察したり、購入する方法を紹介します。
モウセンゴケを観察するには
以下の場所で観察することができます。
・自生地
・植物園の食虫植物展示
モウセンゴケを購入するには
以下の場所で販売されていますので購入することができます。
・食虫植物愛好家団体の集会
・ホームセンター、園芸店、アクアショップ
・食虫植物専門店
モウセンゴケの自生地情報リンク
日本国内で野生のモウセンゴケを観察できる場所の情報を書いた記事を貼っておきます。
・葦毛湿原
おすすめの食虫植物の自生地は?
私のイチオシの食虫植物自生地は千葉の成東・東金食虫植物群落です。
千葉県の山武市、東金市にまたがる成東・東金食虫植物群落では、4月〜10月にかけて、成東・東金食虫植物群落を守る会の方のボランティアスタッフの方が植物解説をしてくださいます。野生の食虫植物をはじめて見る場合は、生え方がわからず、見つけるまで時間がかかったり、目星をつけた植物が本当に食虫植物か、どの種類なのか自信を持てないことがあります。成東・東金食虫植物群落では、食虫植物のそばに名前の案内板が挿してありますので、わかりやすく、はじめて観察するのにおすすめの場所です。

また夏には親子教室も開催されますので、そちらに参加されるのも良いのでは。
植物園の食虫植物展示
植物園ではモウセンゴケの常設展示があるところがあります。また、多くの植物園では、主に夏季に食虫植物展が開催され、その時にモウセンゴケのなかまが展示されます。
食虫植物愛好家団体の集会
全国の食虫植物愛好家団体が定期的に公民館などで集会を催しています。
ここの販売会や分譲会で購入できることもあります。
・日本食虫植物愛好会
・食虫植物研究会
・東海食虫植物愛好会
・食虫植物探索会
ホームセンター・園芸店・アクアショップでモウセンゴケを購入するには
4月中旬から秋くらいにかけて、ホームセンターや園芸店、アクアショップで
モウセンゴケの苗が販売されています。
山野草店や盆栽店で、モウセンゴケやコモウセンゴケ、東海コモウセンゴケが販売されているのを
見ることもあります。
・オザキフラワーパーク
・プロトリーフ
・ヨネヤマプランテイション
・Gardens
・charm
・アルペンガーデンやまくさ
食虫植物専門店でモウセンゴケを購入するには
・ヒーローズピッチャープランツ
・Y’s Exotics山田食虫植物農園
・大谷園芸
・リベラルファーム
ヤフオク!でも出品されていますので、気になる種類があれば探してみてはいかがでしょうか。
入手しやすく育てやすいおすすめのモウセンゴケ
モウセンゴケは、種類によって、生育環境、生育サイクルも異なり、育て方も異なります。モウセンゴケの中でも流通数が多く、多くの園芸店やホームセンターに出回り、丈夫で育てやすい種類はこの3つです。
・アフリカナガバノモウセンゴケ(Drosera capensis)

・ヨツマタモウセンゴケ(Drosera binata)


・アデラエ(Drosera adelae)

とくにアフリカナガバノモウセンゴケは、丈夫でよく花が咲き、種がつきやすく、種でよくふえます。


元気に育つととても見ごたえがあり、おすすめのモウセンゴケです。
モウセンゴケの値段はどれくらい?
1000円〜3000円くらいの価格帯です。
モウセンゴケを買うときに気をつけること
モウセンゴケを選ぶ時には、とくにこの2点に気をつけます。
・粘液がしっかり出ている
・葉に勢いがある
粘液をしっかり出してキラキラとしているのが元気なモウセンゴケです。調子が悪くなると、粘液があまり出ない状態になり、葉がへたったりします。
番外編:食虫植物(モウセンゴケ)とダーウィンの関係
進化論のチャールズ・ダーウィンと食虫植物の関わりは深いです。
ダーウィンは、食虫植物に深い関心を向け、研究対象とし、1875年には『食虫植物(原題Insectivorous Plants)』を著しています。
そのきっかけになったのがモウセンゴケ(ロツンディフォリア)との出会いです。
ダーウィンの自伝には以下のように書かれています。
一八六〇年の夏に、私はハートフィールドの近くを散歩して休息していた。
チャールズ・ダーウィン 八杉龍一・江上生子『ダーウィン自伝』ちくま学芸文庫 2000年 p.164
そのあたりには、二種のモウセンゴケDroseraがおびただしく生えていた。
私は、たくさんの昆虫がその葉に捕えられているのに気がついた。
私は何本か家にもって帰り、昆虫を与えながら触毛の運動を見た。
そうしたところ、私には昆虫が何か特殊な目的のためにとらえられていることがほんとうらしく思われてきた。
幸いにも私は決定的なテストを思いついた。
それは、非常に多数の葉を同じ濃度のいろいろな窒素を含む液体、および窒素を含まない液体に入れておくことだった。
前者だけが強力な運動をおこさせることが見られたので、すぐ、ここに研究のためのすばらしい新領域のあることが明らかになった。
つづく何年か、暇のあるときはいつでも、私は実験をつづけた。
著作『食虫植物』Insectivorous Plants は、一八七五年七月に出版された。
ダーウィンは、モウセンゴケの肉食性を指摘し、繰り返し実験観察を行い記録に残しました。
ビブリス、ドロソフィルム、ゲンリセア、ウツボカズラ、ムシトリスミレ、ロリドゥラ、タヌキモ、ダーリングトニア、サラセニアも食虫植物ではないかと仮定しましたが、当時は、多くの植物学者からこの考えを受け入れられず、研究は息子のフランシス・ダーウィンに受け継がれています。
ダーウィンの食虫植物への情熱は強く、友人のジョセフ・フッカーに「動物が姿を変えたもの(根と葉がある奇妙な動物)ではないか」と手紙に書き、知人への手紙には「この世のあらゆる種の起源よりも、モウセンゴケに関心がある」と書きました。
番外編:モウセンゴケの薬用利用
モウセンゴケのなかまは、古くから原産地で民間薬として利用されてきました。主に去痰薬としての使われ方が多いようです。
堀田満編『世界有用植物辞典』(平凡社 1989 P.398)によると、モウセンゴケ(ロツンディフォリア)を、「全草を去痰薬にする」、コモウセンゴケを「中国では全草を地毡草と称し、解毒,鎮痛薬にする」とあります。
小宮定志「食虫植物の人間生活の利用」・「中国における漢方薬としての食虫植物の利用」食虫植物研究会会誌43巻、石津症「モウセンゴケの薬効」食虫植物研究会会誌43巻には、古い文献に載せられている世界のモウセンゴケの仲間の薬用利用が詳細にわたって紹介されています。
「食虫植物の人間生活の利用」によると、「中国では古くから多種類の植物が生薬すなわち漢方薬として利用されてきた。食虫植物としては「茅膏菜」または「石龍牙草」の名でイシモチソウが下痢止め、滋養補欠剤、または去痰薬として民間で利用された記録がみられる。「本草拾遺」(739)、「大観本草」(1108)、「本草綱目」(1590)、「植物名実図考」(1848)などで、これを初めて日本へ紹介した書物が「本草綱目啓蒙」(1803)である。しかし、日本ではイシモチソウなどの食虫植物が生薬として余り利用されなかった。
20世紀初め頃まで、ヨーロッパではモウセンゴケ(ナガバノモウセンゴケ、ナガエモウセンゴケを混用)の開花株を採取してアルコール漬けにしたり、乾燥して煎じて去痰薬(せき止め)として広く利用された。殊に、アルコールエキスは5〜10滴飲用することで百日咳に特効があると信じられていた。また、粘膜に強い刺激作用があるため消化不良やテンカンに効く民間薬としても利用されてきた。現在でもスイスなどで市販されている薬草(ハーブ)入る咳止めドロップの中に薬草の一種としてモウセンゴケが混用されている」とあります。
「中国における漢方薬としての食虫植物の利用」には、「食虫植物の人間生活の利用」に追記し、『中薬大辞典』全4巻(上海科学技術出版社、小学館編、1985)『原色中国本草図鑑』全8巻(人民衛生出版社、雄渾社編、1984)に掲載の民間薬として利用されているモウセンゴケの項目が紹介されています。
番外編:モウセンゴケの味は?
モウセンゴケの味はどんな味でしょうか。以前から興味があったところに、テレビ番組の企画でモウセンゴケの試食をすることになり、アフリカナガバノモウセンゴケの生と揚げたものを食べました。
生のアフリカナガバノモウセンゴケは辛いです。粘り気と揮発性の辛みがあり、わさびかカイワレ大根のような辛さがありました。美味しいものではありません。
揚げたアフリカナガバノモウセンゴケは辛みが消えましたが、腺毛が喉に引っ掛かり、ボソボソとして口に残る食べにくい味でした。味自体は少々の青臭さがあるものの淡かったです。
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